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名古屋家庭裁判所 昭和50年(少ハ)2号 決定

少年 W・N(昭三〇・三・二〇生)

一 主  文

本人を、昭和五一年九月二七日まで医療少年院に継続して収容する。

一 申請の趣旨および理由

宮川医療少年院長平山辰雄作成にかかる昭和五〇年九月五日付収容継続決定申請書記載のとおりであるから、これを引用する。

一 当裁判所の判断

(1) 本人は、昭和四九年九月二八日当庁において、航空機の強取等の処罰に関する法律違反、強盗未遂により、医療少年院送致の決定の言渡を受け、その頃宮川医療少年院に収容されたところ、少年院法第一一条第一項但書所定の期間が、昭和五〇年九月二七日をもつて満了するものである。

(2) 本件非行は、その態様、被害状況、罪質などからみて、極めて悪質かつ重大なものであることは今更論を俟たないところであるが、その動機は、前示決定が詳細に説示するとおり、健全なる常識では理解できないまことに不可解なものである。

すなわち、本人は元来自閉的、空想的傾向を顕著に示す分裂病質者であるうえ、本件非行当時においてはさらに、右のごとき性格特徴を基底として、環境的要因も加わり、相当以前より発症したと解せられる慢性の精神病であるパラノイアに罹患しており、その一症状たる願望充足妄想および強迫観念によつて、是非善悪の弁別能力を著しく阻害された状況下で本件非行の動機が形成されたものと認められる。前示決定当時においても、上述のごとき妄想や強迫観念は、若干の変容は指摘されるものの未だすべて消失したとは認められず、その故に、前示決定が、本人に対し精神医学的な経過観察および長期加療を施す必要を認めて、本人を医療少年院に送致したものと解することができる。

(3) 以後、本人は約一年間にわたり、いわゆる精神療法による加療および、院内生活指導を通しての矯正教育を受けて、今日に至つている。その効果はみられ、昭和五〇年四月頃においては、前示のごとき妄想は一応消失したのみならず、過去の妄想に対する一応の反省の念もみられるようになり、さらにすすんで、病識さえも有するようになつたものと認められる。院内における本人の生活態度をみても、後記(5)に掲記した点を除けば、格別問題はなく、順調に経過し、昭和五〇年九月一日には、処遇の最高段階である一級上に達しているものであることも指摘できる。

(4) 前項に掲記したとおり、本件非行の動機を形成したパラノイアによる妄想や強迫観念は一応消失したと認められるけれども、パラノイア自体が精神病の一種であつてみれば、その完全治癒ということはむしろあり得ず、いわば寛解状態にあるに過ぎないと一般的に言い得るのみならず、後記(5)に掲記した、その最近においてもなお性格、行動傾向面にみられる若干の特徴からみると、もしここで加療および矯正教育を中断するならば、再び病状は悪化し、又もや何等かの形の妄想や強迫観念を形成するに至るであろう懸念は大きいといわなくてはならない。つまり、本人の精神面における故障は、この意味で完全に除去されたものとは到底評価できず、従つて、犯罪的傾向は未だ矯正されたとはいい得ないのであつて、今後なお、相当長期間にわたる精神医学的経過観察および加療は不可欠であるのみならず、かなりの精度および濃度をもつて継続されなければならないものであること明白である。

(5) 院内における本人の生活態度をみると、前示のとおり、特に取りたてて問題視しなくてはならないような反則は発見できず、表面的には少年院の規則や教官の指示に従い、着実に学習の成果を挙げているものと認められるが、さらに深く考察すると、そこになお軽視を許さない若干の問題点が発見される。つまり、

イ 本人は、対人関係に過敏であり、特定の人を除いて、自分の方からすすんで他人に接近し、好ましい人間関係を形成しようとの意慾を未だ有していないのみならず、他人からの働きかけに対しても多くの場合、いたずらに拒否的態度を示すのみであり、自分自身の殻を破り、他人と協調しようとの姿勢が依然として認められないこと。

ロ 少年院の教官らから、自己の考え方の非を指摘されても、謙虚に反省し、あるいは、異つた角度からみなおしてみるといつた努力が不十分であり、自己の考え方のみに保われ、これをあらためようとはしないといつた視野狭窄的傾向が未だ顕著に残存していること。

ハ 両親や兄弟らは、深く本人の将来を案じ、再々にわたり少年院を訪れ本人と面会し、あるいは、手紙を発信するなど暖い態度を示しているが、本人は、これら肉親に対してさえ、心を開こうとせず、肉親による真情あふれる激励を受けながら、時として無表情に終始し、受信しても返信を出そうとはしないなど、自閉的ないしは自己中心的な態度を、今日なおあらためようともしないこと。

ニ 自己の感情、特に不平不満を卒直に口頭で表明することができないため、これらがその胸中において内攻しやすいこと。

といつた諸点である。

これらは、本人の性格特徴である分裂病質と、その基底において深く結びついているものであつて、現在寛解状態にあるパラノイアを悪化させる重大なる要因となるものと解されるので、本件においては重く評価するほかないものである。

(6) 保護者(父母)らは本人に対し、現在なお十分なる保護の意慾を有しているものである事実は認められる。しかしながら、前示のとおり本人が、保護者らに対してすら、その真意を表明せず、自らの殻の中に閉じこもろうとする姿勢をくずさないため、保護者らは、戸惑い、失意しており、果ては保護の自信さえも喪失するおそれさえ指摘できる。未だ保護の具体策も確立されてはいない。たしかに、本人の従前の態度および前項のとおりの本人の性格、行動傾向面の負因からみると、保護者らがさしのべる保護の手も、本人によつて頑なに拒否され、効果を挙げ得ないのではないかとの懸念は大きい。本人の社会適応は決して不可能ではない。又前項に掲げたその性格、行動傾向面にある負因を、社会内処遇によつて除去することも可能かも知れない。しかし、そのためには十分なる受入態勢の整備が不可欠である。まず、保護者らに、保護の具体策をたてるだけの時間的余裕を与えるとともに、出院後の本人に対しては、専門機関による強力かつ継続的な指導援護を加える必要が多分に認められる。

(7) 以上説示したとおり、現在本人に妄想や強迫観念がみられなくても、再びパラノイアを悪化させる要因が明確に存在する以上、その予後はかならずしも楽観を許さず、従つて、反社会的傾向が完全に除去されたとはいい得ないので、医療少年院に本人を継続して、今後相当期間にわたり矯正教育を続行することも、やむを得ないものといわなくてはならない。本件申請は理由がある。

なお、期間については、前項に説示したとおり、本人の場合、出院に際して保護観察を付する必要が大であるので、この期間を含めて主文掲記のとおりと定めた。

一 主文の適条

少年院法第一一条四項。

(裁判官 岩野寿雄)

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